暗くなったら発光!実は身近にある「蓄光」その進化がすごい
31
2019
Aug
あまり意識することはなくても、実は身近に存在している蓄光製品。
避難誘導標識や緊急避難時のラインテープなど、暗闇の中で私たちの安全を守るために役立っています。 そんな蓄光について、「暗くなると光るのはなぜ?」という素朴な疑問から、ここ数年での驚きの進化まで、蓄光技術のパイオニアであるエルティーアイ株式会社、東京営業所長の坂部直基さんにお話をうかがいました。
INDEX
そもそも、「反射」「蛍光」「蓄光」の違いってなに?
蓄光についてお話を聞く前に、「蓄光」と「反射」や「蛍光」の違いを教えていただけますか? お客様の中でもよく混同されていることが多くて…。
そういう方も多いですよね。実際のところ、「反射」と「蛍光」と「蓄光」は素材も用途もまったく違うんです。
まずは、それぞれがどんなときにどうやって光って見えるのかを簡単に説明しておきますね。
反射
受けた光を反射するため、暗闇でも光源側から明るく輝いて見える。暗闇での視認には光源が必要であるが、光を受けることで遠方からでも目立つため、ライトを使用する環境での視認性が良好。
蛍光
光に反応することで、明かりのある場所で鮮やかに見える。 暗闇での視認性はないが、鮮やかな色彩で良く目立つため、日中や照明のある環境で明示に有効。
蓄光
蓄えた光エネルギーを放出し自発光するため、暗闇で光って見える。強力な発光ではなく、視認性は時間の経過とともに低下していくが、一定時間の視認が可能なため、目印として有効。
蓄光の特徴は、暗いところで他の光がなくてもみずから光るということですね。
では、その仕組みを教えていただけますか。
電気もなしに光る蓄光の仕組みとは
蓄光素材の主な原料はレアアースです。
レアアースにさまざまな素材を混ぜ合わせ焼成し作られるのがセラミック(蓄光顔料)で、これが蓄光製品となっていきます。
蓄光製品は、光を吸収すると励起(れいき)された状態になるんです。
れいき…ですか?
ちょっと初めて聞く言葉でどういう状態なのか想像ができないんですが。
励起というのは、量子力学で原子や分子が外からエネルギーを与えられ、もとのエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ることなんです。
ちょっと難しいですかね?
む、難しいです(笑)。
外から光を受けることでエネルギーが高まる、それが暗くなるとみずから光るということでいいんでしょうか?
おおむね、そういうことですね。
ただ、実際には明るい所でも発光はしているんです。
暗くなったから光るのではなく、周りが暗くなることによって光を認識できるといったほうが正確かもしれません。
気づいていましたか? セブンイレブンの「避難誘導標識」は蓄光素材
みなさんに身近に見てもらえる蓄光素材は、セブンイレブンの「避難誘導標識」です。
セブンイレブンは、これまで蛍光灯を使用していた避難誘導灯を、2011年に蓄光ステッカーに切り替えました。
発光時間が長く電力を使用しないため、CO2や経費削減の面でも効果があったそうです。
たしかに電力を使わないので環境にもお財布にもやさしいですね。
セブンイレブンはよく利用しますが、蓄光素材には注目したことがありませんでした。
次に行ったときには意識して見てみます。
ちなみに、このセブンイレブンの蓄光ステッカー導入には裏話がありまして…。
え?なんですか?
10年ほど前は、蛍光灯や太陽光の光エネルギーで蓄光する製品ばかりで、LEDの光には対応していませんでした。
当時、LEDは市場に出始めたばかり。そんな中、「今後はLEDが普及する」と考えたエルティーアイ株式会社が、いち早くLEDでも光る蓄光を開発したんです。
すごい!この開発がなければ、すでにLED化が進んでいたセブンイレブンの蓄光による避難誘導標識は誕生していなかったかもしれないんですね!
ありがとうございます。今では多くの店舗やビルでもLEDが当たり前に使われていますから、開発してよかったとしみじみ思います…。
このLEDでも光る蓄光は、東日本大震災後からの防災意識の高まりも受け、一気に普及しはじめました。
ここ数年で進化!「高輝度PLC(蓄光)顔料」のグレードは世界トップレベル!
蓄光素材はもともと、水に対してとても、もろい製品でした。
そのため、プラスチックで保護されている時計の針など、水の影響を受けない場所や用途で使われてきました。
そんな中生まれたのが、特許取得の「耐水性高輝度PLC(蓄光)顔料」です。
弱点だった水を克服できれば使用範囲も広がりますね。従来のものとどう違うんでしょうか?
これは水と反応しても化学変化を起こさず、PH値は一定を保ったまま。何と水の中で1カ月が経過しても、発光能力が変わらないという、すごい顔料です。
しかも、LEDでも消防法定基準をクリアできるようになったことは、かなり画期的なことといえます。
―― | 高輝度PLC顔料 | 従来の蓄光顔料 |
発光時間 | 10時間以上 | 約1時間 |
屋外使用 | 可 | 不可 |
励起する光の波長範囲 | 200~480nm | 240~470nm |
専門家が画期的とおっしゃるのですから、相当すごいことだというのが伝わってきますね。
さらに、蓄光には各国にさまざまな規格があり、「高輝度PLC(蓄光)顔料」は、以下の規格基準をすべてクリアしています。
- 日本のJIS規格
- 欧州連合(EU)のRoHSやREACH
- ドイツの工業規格DIN
- 国際標準化機構ISO
なかでもJIS規格は、他の規格と比べてかなり厳しい基準となっています。
この結果からも、日本の蓄光製品は世界でトップクラスの品質を誇っているといえます。
日本の蓄光製品がすばらしいのは、原料にも秘密が
それにしてもこんなにすごい製品なので、変な話ですが海外から研究されて技術をパクられちゃったりしないんですか?
実はそう簡単には真似することはできません。その理由のひとつが原料です。
「高輝度PLC(蓄光)顔料」には、2種類のレアアースが含まれています。レアアースは主に中国を中心にアジアで産出されている素材で、この素材を手に入れることが困難なのです。
さらに、この「高輝度PLC(蓄光)顔料」を生み出せたのは、エルティーアイ株式会社のチカラだけではありません。蓄光は、防災、防犯、さまざまな観点から未来につながる技術です。LEDよりもさらに節電できるとして、多くの電機メーカーが最新照明器具の貸し出しを行うなど、技術開発に協力してくださっています。
まさに、日本のチカラが結集して作られているんですね。簡単に真似することができない理由がわかりました。
防災グッズとしても使える蓄光!ぜひ家庭でもご利用ください
実は蓄光素材は、あべのハルカスや、阪急・阪神電車、東京ミッドタウンなど、さまざまな施設で利用されているそうです。
明るいところでは目立たないので見過ごすことが多いと思いますが、ちょっと注目してみると街のあちこちで活躍しています。ぜひ外出先で探してみていただければと思います。
もちろんご家庭でも、突然の停電などに備えて、階段、廊下、扉などに蓄光テープを貼っておくのもおすすめです。とても便利で役立つ蓄光を、もっともっと活用してくださいね!
※この記事の内容は、2019年6月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。