まるで盾と矛!剥がれないはずのコーティングを剥がす「コーティングはがし剤」【開発秘話】
28
2020
Feb
お客さまの要望と、思わぬ失敗から生まれた「コーティングはがし剤」。開発開始から商品化されるまでに、実は丸2年もかかったんです。
だって「剥がれないコーティング剤」を剥がすわけですから、まるで盾と矛ですよね(苦笑)。そこで今回は担当者の藤井さんに、開発までの道のりを詳しく教えていただきました!
INDEX
まずは「剥がれない」コーティング剤の仕組みをおさらい
コーティング剤はたくさんありますが、だいたい数週間ほどで剥がれてしまうものが多いですよね? なぜ和気産業さんのコーティング剤は、3年も剥がれないのでしょうか?
一般的なコーティング剤は、フッ素樹脂で「はじく」仕組みになっています。でもフッ素樹脂だけでは剥がれやすいんですよね。そこで剥がれなくするために「シリコン樹脂」の力も使っているんですね。
シリコン樹脂にはどんな役割があるんですか?
シリコン樹脂には「固める」役割があります。シリコン樹脂とフッ素樹脂のハイブリッドコーティングにより、小さなくぼみに深く浸透して強固な膜を作っているんです。
もともと業務用として使われていたもので、それを家庭でも使えるように開発したのが、このコーティング剤なんです。
小さなくぼみにまで浸透しているから、強力で剥がれにくいわけですね。
コーティングを溶かす液体探し
でも、その強力さゆえに、苦労されたと…。
はい。まずはコーティングを溶かす液体を探すことから始めました。
コーティング材と接着剤は「物を接着する」「材料が石油系」など共通する部分も多いので、取引先の接着剤メーカーさんに相談したんです。
でもそこでは溶かす液体を見つけることはできませんでした。接着剤メーカーさんは「接着させる」ことに重点をおかれているわけですから、真逆のことをお願いしているので、そりゃあ難しいですよね。
確かに、そうですよね(苦笑)。
そこで次は、クリーナー関連のメーカーさんに相談することにしました。何種類もテストを行い、やっとコーティング剤を溶かせる溶剤を見つけたときは、「やっと見つかった!」「よかった!」と仲間と喜んだのを思い出します。
あれ? でもコーティングはがし剤は溶剤じゃないですよね?
そうなんです。溶かすことはできたのですが、完全に溶かすにはすごく時間がかかったんです。安全性はクリアしていたものの、時間がかかるという点を克服することができず、商品化には至りませんでした。
やっと見つけたと思ったのに、悔しかったです…。
また振り出しに戻ったわけですね。
そうなんです。時間をかけずに溶かす溶剤もあるにはあったんですが、一般の方は使用できない劇物の液体でした。
もちろんその後も探し続けたのですが、なかなか見つからず、諦めかけていたときに出会ったのが「シラスバルーン」だったんです。
剥がすのが得意な素材「シラスバルーン」が救世主に
シラスバルーンとの出会いは、今でも忘れられません。新規のメーカーさんが新商品「すごい水垢取り」の実演をされていたんです。
水垢ってそれまでは、「溶かす」「削り取る」の2つの方法しかなかったんですが、その商品は「剥がし取る」商品でした。
これまではコーティング剤を剥がすのに耐水ペーパーを使っていたので、剥がし取る構造と耐水ペーパーで削り取るイメージが重なり、「これならいける!」と思ったんですよね。
シラスバルーンは私も勉強しましたよ。こんなイメージで「剥がし取る」んですよね。
はい、その通りです。コーティングした隙間に微細粒のシラスバルーンが入り込み、コーティングを剥がし取っていきます。
じゃあ、シラスバルーンのおかげで全部解決したわけですね。
いえいえ、そんなに簡単ではありません。
シラスバルーン(火山灰)は、大きく分けると大・中・小と粒の大きさが違うんです。初めて実験したシラスバルーンの粒は大きくて、コーティング剤を剥がすことができたのですが、下地のステンレスにも大きな傷がついてしまったんです。
傷がついてしまっては、意味がありませんよね。
そうなんですよ。次に中くらいの粒も試しましたが、かなり改善はしたものの完璧といえるものではありませんでした。
でも小の粒は電動工具などで使われるほど小さく、一般の方が素手で使用するのは難しかったんです。
そこでメーカーさんにご協力いただき試行錯誤を重ねた結果、中と小の間の大きさのものを特別に作ってもらうことになりました。これこそが、コーティング剤を剥がし、傷を最小限に防げる、納得の「コーティングはがし剤」でした。
成功したのは「諦めなかったから」
コーティングはがし剤ができるまでは、耐水ペーパーで削り取ることを推奨されていましたよね? 途中、もうそれでいこうと思われませんでしたか?
耐水ペーパーも、目の粗さにはいろいろあります。目が荒いものはコーティング剤を素早く落とせるけれど傷もつきやすい。目が細かいものは傷はつきにくいけれど落とすのにすごく時間がかかる。
できないわけじゃないけれど、お客さまにとってより良いものが作れたら…その一心でしたね。道のりは長かったのですが、こつこつ諦めずにがんばったことが、商品化に結びついたと思います。
本当に、今回お話を聞いて、藤井さんのがんばりと粘り強さが生み出した商品だということがよくわかりました。
世の中には画期的な製品がたくさんありますが、その一つひとつに、今回の藤井さんのような努力が隠されているんでしょうね。いいものマガジン編集部は、こうした「裏側」にも注目していきたいと思います!
※この記事の内容は、2020年2月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。