めっきって何?原理や種類など、基礎知識をわかりやすく教えます
18
2020
Oct
「めっきが剥がれる」という慣用句がありますね。この言葉から、めっきって何かの上に覆われているものだろうな…というのは、何となくイメージできても、実際はどんなものかわからない…という方も多いでしょう。
めっきとは、物質の表面を金属の薄い被膜で覆う技術のことをいいます。そう「技術」なのです。
何と、めっきの起源はメソポタミア文明! 紀元前1500年頃には、銀めっきや錫(すず)めっきが、すでに行われていたそうです。日本では752年に東大寺の大仏に金めっきを施したのが、めっき技術の始まりといわれているんですよ。
ただし、この頃のめっきは電気を使わない方法で、現在主流となっている電気めっき(電解めっき)は、1805年に発明されました。その後どんどん技術が発達し、進化を続けるめっき。
今回は大阪府八尾市にあるNCC株式会社の工場におじゃましました。代表取締役小林晃さんにもたっぷりとお話をうかがいましたので、ご紹介しますね。
INDEX
めっきは何のためにしているの?
めっきの目的は、見た目を美しくする以外にもあるのでしょうか?
はい。めっき技術の進化で、さまざまな性能を与えることができるようになりました。
たとえば、このような場面で使われているんですよ。
めっきは見た目だけじゃなく、私たちの生活の中でこんなに活躍しているんですね!
続いては、工場の中をご覧いただき、実際にめっきしているところを見ていただきましょう!
めっきは「ドボン」と液につけるだけ?
めっきって「薄い皮膜で覆う」という技術なんですよね?
何かの溶液に「ドボン」とつけたらできそう…みたいなイメージだったんですけど、工場の様子を拝見すると、ちょっと違うようですね。
そういう方法もあるんですよ。だから「めっきって、どぶ漬けとか塗装だから簡単なんでしょ」と思われがちなんですが…。実は、それだけじゃないんですよ。
工場を拝見して、それがわかりました。機械もたくさんあるし、なんども工程を繰り返していたり…。
目的ごとにめっきの施され方は違います。鈴木さんたちにもいくつか見ていただきましたが、どれが何かはわかりづらいですよね。
めっきの方法は大きく分けて、湿式めっきと乾式めっきがあるんです。
分類 | 種類 | 手法 |
---|---|---|
湿式めっき | 電気めっき | 物と金属物質に電気を流すことで、化学的に結合させる方法 |
湿式めっき | 無電解めっき | 薬品による化学反応を利用し、還元反応を起こさせる方法 |
乾式めっき | 真空めっき | 真空にして蒸着させる方法 |
乾式めっき | 溶解めっき | 溶かしためっき金属の中に物を漬ける方法 |
鈴木さんのイメージされていたドボンとつけるというのは、業界では「どぶ漬け」と呼びます。そのどぶ漬けで行われるのは「溶解めっき」だけなんです。
一般的に行われているのは湿式めっきで、その中でも現在主流となっているのが「電気めっき」です。化学的に結合させるので、どぶ漬けや蒸着と比べると結びつきは断然強固なんです。
電気で密着力アップ?繊細で手間のかかる電気めっき
化学的に結合! どのような仕組みなんでしょうか?
実際にご覧ください。ちょっと写真はお見せできないのですが…。
簡単にお話しすると、めっき金属が入った容器に、治具(じぐ)につるした物体を入れ、両側から電気を流すという作業になります。
外から見た感じだと、よくわからないのですが、この容器の中で何かが行われているんでしょうか。
めっきしたいものはマイナス極、めっきさせたい金属はプラス極になっています。
スイッチオンで電気を流すと、マイナスとプラスの電子が結びつくんです。その作用でめっきするのが、この電気めっきというわけです。
ヘぇ〜おもしろい! こんなふうになっているんですね。この治具っていうのは、製品によって違うみたいですが?
はい、そうです。めっきしたい場所だけに作用させるためには、使い回しはできないです。治具を作るために専門の業者さんにお願いすることもあります。
わぁ、そうなんですね。治具が大きな役割を果たしているんですね。じゃあ、これが一番の肝になる感じですか?
めっき作業のなかで大切な部分ではありますが、工程としてはまだまだありまして。実は、「めっき工程」の前後に必要な多くの作業があるんです。
え? これだけじゃないんですか?
はい。ご紹介したのは工程のほんの一部。
めっきが完成するまでには、このような作業が必要になります。
- 前作業 研磨やホーニングなどの素材加工を行う・治具の取り付け
- 前処理工程 主にめっきしたい物体の脂を除去する「電解洗浄」「浸漬脱脂」「電解洗浄」など
- めっき工程 上記で紹介した電気を流す工程
- 後処理工程 中和や乾燥などを行う
- 後作業 治具の取り外しや検査など
ええ~! こんなに工程があるんですか! 自動化されている部分もあるとは言え、治具の取り付けなど、人がやることも多いんですねぇ。
さらに細かくいえば、NCC株式会社では、②~④までの作業に60もの工程を必要とする製品も扱っています。
(クリックすると別タブで開きます)
え! こんなに手間がかかっているんですか!
そうなんです。作業自体はシンプルですが、一つ一つの工程の間に必ず「水洗」作業を行うなど、結構手間はかかるんですよ。
本当に繊細な作業なんですね…。工場内は暑いし大変なお仕事だけど、めっきされた製品が治具にかかっている様子は、とてもきれいだと思いました。
電気を通さないプラスチックには電気めっきはできない!?
電気めっきの仕組みを教えていただきましたが、一つ疑問があります。
電気を通さないプラスチックなどには、電気めっきができないということですか?
いい質問ですね!
実は、あることを行うことで、プラスチックにも電気めっきが可能になります。
例えばABS樹脂。ABS樹脂は、「アクリロニトリル」「ブタジエン」「スチレン」からなる合成樹脂です。このブタジエンを化学的に溶解することで、小さな穴を開けます。
その穴にパラジウムを付着させ、まず無電解めっきを行います。
そうすることで電気を通す物質となり、電気めっきを施すことができるようになるんですよ!
(クリックすると別タブで開きます)
化学反応で金属を作り出してから電気めっきをするなんて、すごい技術ですね! なんだか今日はめっきのイメージが大きく変わりました。ありがとうございました!
※この記事の内容は、2017年6月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。
豆知識 「めっき」「メッキ」どちらが正しい?
みなさんは「めっき」のことを、平仮名・カタカナどちらで表記しますか?
めっきの始まりは“金めっきで水銀に金を溶解して金の色合いがなくなること”で、これを「滅きん」と呼び、なまって「めっき」となったのが定説(※)のようです。つまりめっきは、あくまでも日本語なので、学術的には「めっき」のほうが正しいといわれているそうです。
※秀和システム「これだけ!めっき」参照
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