ニッチな商品「イス脚カバー」にみるお客様に寄り添った商品開発
21
2022
May
イス脚カバーを使ったこと、ありますか?
編集部員6人に確認したところ、使ったことがあるのは2人だけでした。世間でも、存在は知っているけど、今まで必要性を感じたことがなく、使ったことがないという方も多い商品です。
和気産業はお悩みに合わせて、多種多様なイス脚カバーを揃えています。使っている人が少ない商品なのに、さまざまな種類を開発し続けている理由は、必要としている人にとって、なくてはならない商品だから。
お困りのお客様に、本当に必要なものを届けるため、「イス脚カバー」だけを取り扱う通販サイト「イスが静かに.com」も運営しています。店長であり、自称イス脚カバーソムリエでもあるEC事業部の大田さんに「イス脚カバー」について聞いてみました。
INDEX
フローリングの普及によって、イス脚カバーの素材が変わった!?
「イスが静かに.com」店長歴10年の大田さん、今日はよろしくお願いします。
まず最初に、和気産業のイス脚カバーの歴史について教えていただけますか?
店長歴は10年ですが、和気産業のイス脚カバーの歴史はもっと古く、20年以上前からあるんです。当時のことは資料にも残っていないので、私自身も詳しくはわかりません。 聞いたところによると、少なくとも1970年にはイスゴムの取り扱いがあったそうです。 フローリングが普及し始めたのが1990年代なので、和気産業は畳に絨毯、板張りにビニル床だった時代からイスゴムを取り扱っていたということがわかります。
思ったより長い歴史にびっくりしました!
当時から床を傷つけたくないという思いがあったことがわかりましたが、種類はゴム素材だけと少ないですね。現在よく見るイス脚カバーは、違う素材に見えます。
その通り。今はエラストマー樹脂が主流です。
エラストマー樹脂は、ゴムのような弾性を持ちながら、ゴムより成形しやすい素材です。 フローリングの普及に比例する形で、ゴムからエラストマー樹脂に切り替わっていきました。
切り替わったんですか?エラストマー樹脂が扱いやすいのはわかるのですが、ゴムもフローリングのキズ防止に使えますよね?
あ、でも引きずった跡がついちゃうかな…。
引きずった跡も理由の一つだとは思いますが、もっと大きな問題があります。
それは、色移行。添加物(老化防止剤・加硫促進剤など)が含まれているゴム製品を長時間使用すると、接触していたものや場所に色移りすることがあるんです。
実際に、お客様のフローリングが変色してしまった事件もあったようです。
お客様のフローリングが…!それは大事件ですね。いつ頃の話ですか?
30年ほど前の洋間が増え始めた時期ですね。新しい床にキズがつかないよう、イスゴムを使っていたお客様のフローリングが変色してしまったんです。イスが置いてあった、あらゆる場所が茶色っぽくなってしまって、フローリングを丸ごと張り替える大騒ぎだったとか。
丁度その事件が起きたのが、絨毯・ビニル床とフローリングの比率が逆転しはじめた時期だったみたいで。そこからはどんどんエラストマー樹脂製のものが増えていったようです。
なるほど。イス脚カバーはお客様の生活スタイルに合わせて、ゴムから樹脂へと変化していったんですね。
全部で333種類!?お悩みに合わせて増えているイス脚カバー
本体が変わったのはよくわかったのですが、よく見ると底面はエラストマー樹脂と違う材質ですね。
よく気がつきましたね。 側面はエラストマー樹脂がほとんどですが、底面はエラストマー樹脂のほかに、ポリエチレン樹脂・フッ素樹脂・フェルト・ウレタン・ナイロンがあります。
ゴムからエラストマー樹脂に切り替わって、色移行の問題なく床のキズを防止できるようになったのに、さらに種類が増えたんですか?
そうなんです。その理由はフローリングが主流になることで、絨毯やビニル床のときにはなかったお悩みが出てきたからです。
具体的にはどのようなお悩みですか?
一番多いのは、昔と変わらず「床にキズがつく」お悩み。
新しく出てきたのが「引きずったときの音が気になる」、「摩擦で動かしづらい」というお悩みです。
たしかに、引きずったときの音が気になるというお悩みは、絨毯が主流だったら出てこないですよね。フローリングとなると、どのお悩みも気になります。
エラストマー樹脂・ポリエチレン樹脂・フッ素樹脂・フェルト・ウレタン・ナイロンのどれを選ぶといいのでしょうか?
床がフローリングの場合は、「床にキズがつく」「引きずったときの音が気になる」「重みや摩擦で動かしづらい」どのお悩みも底面がフェルトのイス脚カバー『ワイドフェルトキャップ』で対応できます。
というのも、『ワイドフェルトキャップ』はそれまでの商品の欠点
・イスゴムの欠点 → 滑りにくい
・シールのように貼り付ける粘着付フェルトシートの欠点 → 外れやすい
・フッ素樹脂の欠点 → 床が傷つきやすい
これら全てを補うべく開発された画期的な商品なんです。2004年に誕生してから、ずっと人気のロングセラー商品でもあるんですよ。
『ワイドフェルトキャップ』が出てくるまでは、お悩みのどれかは諦めざるをえなかったってことですよね。一挙に解決できるってすごい!
フローリングの主なお悩みはフェルトが解決しちゃいましたが、他の素材はどんな場合に使うのでしょう?
カーペットやザラザラしたモルタルの床、目地の大きいタイルの床など、ツルツルしていない床で使います。あとはフローリングでも、高齢者がつかまったとき滑ると危ないといったお悩みの場合は、エラストマーやウレタン素材のものを使いますね。
どの床にどの底面を使うと効果的か、目的別に表にまとめてみました。
床の素材/目的 | 床のキズ防止 | 音の軽減 | 滑りやすく | その他 |
---|---|---|---|---|
〈ツルツルな床〉 フローリング・ Pタイル大理石・クッションフロア | フェルト | フェルト | フェルト フッ素 ※砂粒注意 | 〈滑り止め〉 エラストマー・ ウレタン |
カーペット・畳 | ポリエチレン・フッ素 | 〈凹み防止〉 底面積が大きいもの | ||
〈ザラザラな床〉 モルタル・目地の目立つタイル | エラストマー・ナイロン |
わかりやすい!うちは引っかかりのある竹のラグを敷いているので、ポリエチレンかフッ素が良さそうです。これでお悩みにあったイス脚カバーが選べますね!
いいえ。これだけでは選べません。
え…!
イス脚カバーに種類がたくさんある理由は、床に対応するためだけではありません。
床よりも多種多様なイス脚の形に合わせて、口の形が増えているからなんです。底面が決まったら、次はお使いのイス脚に合う形を選びましょう。
なるほど。私は脚の形が関係ない打ち込み式や貼り付けるシートにしようと思います。合わなかったという失敗の心配がなくて安心ですよね!
たしかに、打ち込み式は脚の形に関係なく使えます。しかし、木製の脚にしか使えません。 シートを貼り付ける方法も、よく動かすイスに使うとなると、いくら強力な粘着でも面積が小さくてはがれてしまうことがあります。
そうなんですね…!いわれてみると、打ち込み式や貼り付けるシートで対応できるなら、イス脚カバーの種類はこんなに増えていないですよね。
そういうことです。実際に「フェルトを貼り付けたり、ソックスタイプをかぶせたり、色々試したけれど、どれもはがれて脱げてしまって…。ネットで解決方法を調べて『イスが静かに.com』にたどり着きました。」といったお客様から、お問い合わせいただくこともよくあります。
和気産業では、床のキズを防止するためのイス脚カバーが脱げてしまうことによって、新たなストレスを生み出してしまっては意味がないと考えています。だから、お客様のイスにぴったりのイス脚カバーを提供できるよう、さまざまな形を揃えているんです。
それで、333種類もあるんですね。甘く見ていました…。
おかげさまで、ぴったりのイス脚カバーに出会えたと感激の声をいただくことや、気に入って複数回ご注文いただくことも多いです。
まさに必要としている人にとって、なくてはならない商品なんですね。
悩みに応えるべく、ここまで進化しました
あれ、このイス脚カバー、底面が外れるんですね。そして中にはマジックテープ®。もしかして、底面を取り替えることができるんですか?
はい。『家具のスベリ材キャップ』は底面だけを取り替えることができます。夏はフローリング・冬はカーペットを使うご家庭なら、フェルトとポリエチレンの底面キャップを取り替えるだけで年中使えます。古くなってきたときも、底面キャップだけ交換できるため経済的です。
なるほど。底面だけ変えたいという要望に応えた商品なんですね。
底面が取り外せるのもなかなか見ないですが、側面が蛇腹なのも珍しいですよね。
なぜ蛇腹なんですか?
蛇腹の理由は2つあります。
1つは丸脚、角脚、さらには特殊な形状のイス脚にも柔軟に対応できる点です。
特殊な形状のイス脚にも使えるのはいいですね!
もう1つの理由は脱げにくい点ですか?
その通りです。蛇腹のおかげで、イス脚にぴったりフィットします。
また脱げにくい理由は、蛇腹の口だけではありません。ひっくり返すと底面の内側が星型に掘り込まれています。ここが従来品と大きく違うところで、どんな形の脚でもがっちりと固定できる秘密。
底面が交換できることや蛇腹の口、底面の星型、さらには形状を含めて特許も2つ取得しているんですよ。
見えないところにも秘密があったなんて!いろんなイス脚カバーを試してみたけど、どれも脱げてしまったという方におすすめしたい商品ですね。
あと気になるイス脚カバーがもう一つ。他のものと違って丸い形が印象的なのですが…
『イス脚フィット』ですね。学校のイス用に開発した商品です。
教室のイスや机にテニスボールを履かせて騒音対策をしている学校が多いことに着目して商品開発した結果、この形になりました。
テニスボールは使っているうちに切れ目から裂けてしまうし、なにより空気の入ったボールに刃を入れるのは危ないですよね。それでもテニスボールを使う理由は、イス脚カバーが高いからなんです。
そういえば、私の通っていた学校にもテニスボールがついたイスがありました!そんな理由があったんですね。テニスボールが裂けてしまっていて、イスを動かすたびに外れて面倒だった覚えがあります。
学校のイスは家庭のイスに比べて動かす回数が多いので、脱げやすいんですよね。普通のイス脚カバーを使ったとしても、脱げたり、摩耗したりしやすい条件です。
『イス脚フィット』はそれらを解決するために開発されたので、脱げにくく、耐久性が高いのが特徴です。気軽に導入していただけるようコスト面も工夫しました。
脱げにくさとコスト面はわかりました。でも耐久性といわれるとちょっと不安です。小学生がイスに座りながら揺らしたりするから、底面はすぐにすり減っちゃうんじゃないですか?
やっぱり耐久性は気になりますよね。
安心してお使いいただけるよう、試験も実施しました。50cmの距離を1往復4秒間で5000回往復、さらに15kgの荷重をかけて2000往復した摩耗試験の結果がこちらです。
フェルトって、すぐモサモサになるイメージがあったのですが、全然大丈夫ですね!
普通のフェルトだったらモサモサになるかもしれませんね。
この学校用に開発された『イス脚フィット』に限らず、和気産業がイス脚カバーに使っているフェルトは高密度フェルトだから、工作等に使うフェルトに比べて、耐久性が高いんです。
それに底面と側面が一体成型だから、フェルトだけはがれてしまうということもないんですよ。
なるほど。たくさん使う学校のイスでも安心して使えますね。
毎年2・3月になると、多くの学校から『イス脚フィット』についてのお問い合わせや注文が入ります。たくさんの学校で活躍しているようで嬉しいですね。
どんなイスにも対応したいから、デザインはシンプルに!
あらゆる床やイス脚の形、学校のイスにまで対応しているイス脚カバーですが、最近人気のおしゃれなイスにも使えるんですか?
脚が細かったり、斜めだったりするイスのことですね。
実は『ワイドフェルトキャップスリム』はそんなイスに対応するために生まれた商品です。フェルトが底面だけでなく、側面に繋がる斜面まであるので、80度までの斜め脚で使えます。
おしゃれなイスにもばっちり使えるんですね!
でも細い脚だと、使っているうちに底面を突き破っちゃいそうなイメージがあります…。
それも対策しています。破れの原因は、鋭い脚の先が底面を貫いてしまうこと。だから、鉄板(座金)を入れて、鋭い脚の先を底面に触れさせないようにすると破れなくなります。
ここでひとつ注意しておきたいのが、鉄板はあくまで、先が鋭い脚用だということです。スチール製パイプ脚で先端にキャップがない場合は、鉄板を入れたまま使っていただくとよいのですが、先端にキャップがついている場合や木製脚の場合は、鉄板を外していただく必要があります。理由は、イス脚が鉄板の上ですべることにより、思わぬキャップの破れにつながる可能性があるためです。
使用前に破れを心配するお客様はたくさんいらっしゃいますが、鉄板を正しく使っていただいた方で、突き破ったというお客様は今のところいないので、ご安心ください。
かゆいところに手が届く商品ですね!
斜め脚でも使えること、破れの心配がないことは十分にわかりましたが、おしゃれなイスにイス脚カバーをつけると、デザインが損なわれちゃいそうで躊躇します。
そんな方のために、「イスが静かに.com」限定ではありますが、おしゃれなイスに似合う色を増やしました。従来品の濃茶に加えて、淡い木材の色に合う薄茶とシンプルな黒です。
そこまでお客様のことを考えていたなんて…。お見それしました。
最近も、三角脚にはどのイス脚カバーが合うかというお客様のご相談にのりました。
イス脚の形はこれからも増えていくかもしれませんが、できるだけお客様の声に応えられるようにしたいですね。
これからもお客様に寄り添った商品開発を
「イス脚カバー」一つをとっても、これだけ考えて作られていることがわかりました。
通販サイトを運営していると、お客様の声を直接聞く機会が多く、新しいお悩みに気がついたり、逆にお客様から画期的な履かせ方を教えてもらったりすることもあるとか。 必要としている人にとって、なくてはならない商品を、使う人が少ない商品だからとないがしろにするのではなく、大切に育てていく。
和気産業は、これからもお客様に寄り添った商品開発を続けていきます。
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※この記事の内容は、2022年3月時のレポートを元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。