磁石のトレンドは耐荷重!マグネットシートやフックをもっと強力にした滑り止め加工とは?
07
2024
May
1990年代から磁石を取り扱っている和気産業。当時はシートや粒状の磁石が多く、素材として使う人がほとんどでした。その後、マグネットフックが市場に出てきたことで、用途がわかりやすくなり、どこの家庭でも使われるくらい身近なものとなりました。
近年では、100円ショップでも手軽に手に入る磁石。和気産業では、ホームセンターならではの売り場を作るために、商品のラインナップを見直したり、新商品を開発したりしています。磁石のトレンドはどう移り変わっているのか、商品課課長の岡谷さんにお話を聞いてみました。
INDEX
お客さんが磁石に求めているのは、ズレたり落ちたりしない耐荷重
和気産業は昔から磁石を取り扱っているんですね。ずっと需要があるんですか?
磁石の需要は年々増加しています。
近年でもオフィスのフリーアドレス化にともなって、デスク回りの収納など使用シーンが増えたり、キッチン回りやバスルームなどマグネットがつく壁の提案も増えたりしています。
なるほど。たしかにSNSを見ていても、キッチンやお風呂でマグネットを使って、道具を浮かせるのが当たり前になってきていますね。どんなマグネットが人気なんですか?
これまではデザインや付加価値に重きを置いて、商品を取り扱っていました。
しかし、調査をしてみると、耐水性・天井吊り対応などの付加価値やデザイン性がある商品よりも、耐荷重が大きい商品が売れていることがわかりました。ホームセンターにマグネットを買いにくるお客さんは、重いものにも使える耐荷重を求めているということです。
もちろん付加価値やデザイン性がある商品も大切ですが、そういった商品はホームセンターでなくても買えるようになってきているので、原点に立ち返って、耐荷重の大きい商品の取り扱いを増やすことにしました。
いわれてみれば、ホームセンターに買い物に行くのは、他のお店では用途に合うものがなかったときや、機能面が優れているものがほしいときな気がします。
磁石は素材によって、耐荷重が大きく異なります。そのため、従来品の耐荷重は素材によって決まる傾向がありました。それでは、ホームセンターならではのラインナップとして、不十分ではないかと考え、新しいメーカーさんとの取引もはじめました。
それが、マグネットの素材に依存した耐荷重を上回る技術を持つマグネットメーカー、マグエックスです。
マグネットメーカーに聞いてみた!等方性と異方性とは?
ここからは株式会社マグエックスの安藤さんに、お話をおうかがいします。
マグエックスはプラスチックマグネットの専門メーカーなんですね。
プラスチックマグネットとは何ですか?
プラスチックマグネットとは、特殊レジンと磁性酸化鉄粉(フェライト磁性粉)を主原料としたマグネットです。ボンド磁石と呼ばれることもあり、主に車の初心者マークなどに使用されるマグネットシートを中心に、工業部品、広告・看板、文具・事務用品、ノベルティ、磁気治療器など、幅広い分野で使用されています。
初心者マーク、イメージしやすいです。
形が自由で比較的柔らかい磁石がプラスチックマグネットということでしょうか。
そうです。プラスチックの柔軟性に着目した創業者が、当時の主流であった焼結磁石の欠けやすいデメリットを解消すべく、柔らかい磁石の開発をはじめたのがマグエックス創業のきっかけとなっています。
マグエックスの歴史はプラスチックマグネットの歴史なんですね。
マグネットは昔に比べて、どのように進化していますか?
マグネットの種類にもよりますが、弊社のマグネットシートの場合は等方性から異方性、近年では異方性に滑り止めコートを施したものへと進化しております。
等方性と異方性、マグネットのパッケージで見たことがあります。何が違うんですか?
等方性マグネットと異方性マグネットの違いは、フェライト粉末粒子にあります。
等方性マグネットは、多結晶の等方性用磁粉とプラスチックを混錬し、機械で所定の形状にしたものです。異方性マグネットは、単結晶の異方性用磁粉を使用し、成型時に磁界配向装置や機械配向装置を使って、粒子をあらかじめそろえることで一定の方向に強い磁力を得ることができます。
粒子が多結晶か単結晶かで磁力が変わるんですね。
そうです。結晶方向が様々な多結晶に対して、単結晶は磁化容易軸の方向にのみ磁化される性質を持っているため、磁力の強い磁石となります。
なるほど。等方性マグネットに比べて、異方性マグネットのほうが磁力が強い理由がわかりました。同じ異方性マグネットでも、耐荷重が違うものがあるのはなぜですか?
磁石は基本的に厚みや表面積が増すほど強くなります。他にも素材によって吸着力が異なります。
磁石の種類による磁力の違いはこちらをチェック
「超強力マグネットシート」の素材は比較的磁力の弱いフェライト磁石なのに、耐荷重が大きいのはなぜですか?
等方性、異方性に次ぐ進化、滑り止め加工によるものです。
「超強力マグネットシート」には、独自開発のハイグリップコートを施しています。
ネオジム磁石を配合すると、磁力が強くなりますが、その分高価になってしまいます。
世の中に広く流通しているフェライト磁石のマグネットシートを、加工によって滑りづらくすれば、より強力なシートが作れると考え、開発しました。
水平方向への摩擦抵抗が大きくなるので、コーティングしていない異方性マグネットシートに比べて、耐荷重は約4倍。より強力に保持することができます。
「超強力マグネットシート」 、ダンベルを浮かせられるほど強力なんですね。
滑り止めってすごい!
マグエックスのマグネットフックは滑らないからズレない!落ちない!
シートだけでなく、マグネットフックもあるんですね。
この「ゼロスライドフック」、鉄板から外そうとしても全然動きません!
マグネットフックは、設置面が高機能滑り止めゴム「R-FIX®」なので、滑りづらくなっています。
素材から開発し、特許も取得している技術で、シリコンゴムよりも滑らないのが特徴です。ズレ落ちや落下を防ぐだけでなく、設置面もキズつけません。
ネオジム磁石の上に、滑り止めゴムが貼ってあるんですね。
そうです。「R-FIX®」を貼っていないマグネットフックに比べて、コンパクトなのに高耐荷重なのが特長です。
素材はそのまま、加工によって耐荷重を向上させているんですね。
フックの「R-FIX®」とシートの「ハイグリップコート」、違う加工なのはなぜですか?
「ゼロスライドフック」は磁石の素材として強力なネオジム磁石を使用しているため、滑り止めゴムを通しても問題ありませんが、「超強力マグネットシート」は一般的なフェライト磁石を樹脂と混ぜ合わせて作っているため、滑り止めゴムを通してしまうと磁力が届かなくなってしまいます。
そのため、シートには薄いコーティングの「ハイグリップコート」を施しています。
DIYの用途に合わせて共同開発も!厚みがあるから強い!
厚みによって磁力が変わるのであれば、マグネットシートも厚くすれば、もっと耐荷重が増えるということでしょうか?
マグネットが厚くなればなるほど、磁力の波が遠くまで飛ぶようになります。そのため、対象物の厚みに比例して吸着力もあがります。
対象物に厚みがあって重い場合、マグネットが薄いと端まで磁力の波が飛ばないので保持することが難しいですが、マグネットが厚いと磁力の波が届くため保持できます。
マグエックスと共同開発した「強力マグネットホルダー」は厚みがあるマグネットなので、小さい面積でも高い吸着力があります。レンチやハンマーなど、厚くて重い工具も保持できますよ。
なるほど。シートに厚みがある分、磁力が遠くまで飛んで、スチール製の工具をよりしっかり保持できるんですね。
同じく共同開発した「超強力パワーマグネットテープ」も厚みがあるため、吸着力があります。ハサミでカット加工できるため、接合部材としても使えます。
お話を聞くまで、ネオジム磁石に比べて、フェライト磁石は磁力が弱いのが当たり前だと思っていました。素材だけでなく、厚さによって磁力が変わったり、滑り止め加工によって耐荷重が大きくなったりするとは…。磁石のイメージが大きく変わった気がします。
より実用的に進化した磁石、売り場でチェックしてみてください
滑り止め加工がされている磁石や厚みがある磁石など、磁石の進化によって、売り場に新しい提案ができるようになりました。
磁石が使える壁面やデスク、浮かせる収納など、活躍できるところも増えています。
磁石にズレたり、落ちたりするイメージがある方は、より使いやすく強力になった磁石を是非売り場で体感してみてください。
※この記事の内容は、2024年2月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。