防災で一番大事なのは「考えること」災害の現場を知るプロが本当に伝えたいこと
18
2024
May
いいものマガジンでは「防災」に関する記事を、これまで数多く発信してきました。
防災備蓄収納のプロである、一般社団法人防災備蓄収納プランナー協会の代表、長柴美恵さんにお話を伺い、2021年には、編集部員全員がそれぞれ「非常用持ち出し袋」を作ったこともありました。
2021年以降も、さまざまな自然災害が発生していますが、みなさんはどんな備えをされていますか? 「考えるのが怖い」「起こったときに考えるしかない」という方も、中にはいらっしゃるかもしれません。
けれど、本当にそれで良いのでしょうか?
今回は防災備蓄収納のプロとして被災地へ出向き、住民の声や自治体の活動を見聞きしてきた長柴先生に現状をお伺いすると共に、私たち一般人が本当にすべきことは何かを考えていきたいと思います。
INDEX
災害の現場は想像以上に混乱、検討すべき「在宅避難」
長柴さんは、これまで多くの被災地を見て来られました。現場の状況について、率直に感じられたことを教えていただけますか?
東日本大震災後には、宮城県、福島県、岩手県の13市町村を回りました。1年後に訪れた際も、役所には多くの方が詰めかけ混乱していました。役所の方も疲労がたまっていると感じましたね。
1年後でも、そうなのですね…。
役所の方自身も被災されていることが多いですから。そんな中、身を削って働いてくださっているわけなので、やはり限界があります。
例えば、日本で災害が起これば避難所が開設されますが、それで十分だと思いますか?
いやいや、避難所の様子をニュースで見ると、体育館に雑魚寝が当たり前で、十分とは思えませんよね。
うちは犬を飼っているので、実際のところ、避難所へは行けないだろうなぁと不安に思っています。
私は夫と車中泊旅をしているのですが、災害時は車で寝泊まりしたほうがいいかなぁなんて話しています。
みなさんは、いいものマガジンを通じて「災害の備え」について考えてこられましたからね。でも、「怖いから考えたくない」「災害が起こったら避難所に行けばいい」という方も、少なからずおられると感じています。
では、各市町村の、災害時食料備蓄はどの程度だと思いますか?
さすがに100%は無理だと思いますが…。
市町村によって違いますが、各自治体のHPをみると、備蓄量が書いている場合もあります。
私が調べた、とある県の場合、乾パンやアルファ米など43万食の備蓄があると書かれています。しかし、その県の人口は700万人以上。1回分にもなりませんよね。つまり、人口100%分の用意ではなく、あくまでも被害想定からの数なのです。
それは、知りませんでした!
とはいえ、「けしからん。最低でも全員の3日分の食料を備蓄(※)すべきだ」と声を上げ、それを行政が用意しようとすると、どうなると思いますか? 購入費用や、倉庫での保管費用などを考えると何十億も必要で、そのための税金を払えますか? という話になると思うんです。
※農林水産省発行PDF:緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド
確かに…。
だから東京都内などはすでに、「在宅避難(※)」を推奨しています。避難所は、“自宅に居住できなくなった被災者を一時的に受け入れ保護するための場所”としているんですよ。だって、全員が避難してきたら、避難所は立ちゆかなくなりますから。
※東京都発行PDF:在宅避難および避難所とは
わ~そうなんですね(汗)。
そういうこと、ちゃんと教えてほしいですね。
行政の情報発信は届いていない?
鈴木さん、そうなんですよ!私も、強く思っています。ただ…防災についての自治体からの発信は、実はしているんですよね。防災アプリなんかも増えていますよ。
わ、ほんとですね!今、自治体のLINEを確認したら、いろんなお知らせの中に「大阪防災アプリができましたよ」って書かれています。全然気づいていなかった~!
私も大阪に住んでいますが、知りませんでした。
そうなんですよ。各自治体も、防災活動や告知はしているんです。でも、比較的関心度が高い、いいものマガジン編集部のみなさんでも、防災アプリの存在を知らなかったということですよね。
私思うんですけど、行政の仕事って「作って終わり」みたいなところがありますよね。本当は活用してもらう、普及させることがゴールにならないといけないと思うんです。
おっしゃる通りです。行政は、もっと本音を語って、それを周知させるところまでやってほしいと強く考えています。
マーケティングのプロに入って、やってもらいたいぐらいですよね。街にポスターを貼ったり、CMを流したり。駅のデジタルサイネージとかで、微細な地震なども含めて起こっていることを伝え続けて、そこに防災アプリのQRコードを入れたりすれば、もっと普及すると思います。
ほんと、そうですよね。
調べてみると、奈良の防災アプリもありました。でも、大阪のとは違う…地域ごとにPDFが並んでいる感じ。これを一つひとつ開かなきゃいけないんですね。
そこもデザインのプロが入れば、PDFではなくサイトで丁寧にまとめたほうが見やすいって、わかると思うんですけど。
行政の情報って、PDFにすることが本当に多いんです。私なんかは仕事だから、一つひとつ開いて隅から隅まで読みますが、普通は読みたくないですよね。情報を発信することは大切。でも、本当にわかりやすい情報を発信する、全住民に周知させる、そういった部分は足りていないなと思いますね。
防災で大事なのは「考えること」
こうした状況を聞いて、みなさんはどう思いますか?
やっぱり、自分で備蓄するしかないのかなと思いますね。
もちろん、個人で備蓄することは大切ですし、私たちも推奨しています。でも、備蓄があればいい、地震に強い建物に住めばいい、だけでは不十分だと思っています。
災害で一番大切なのは、生き延びること。生き延びるために大切なのは「考えること」です。
考えるとは?
備蓄を用意しようとすると、「何がどれだけ必要か」を考えますよね。防災グッズを用意するときも、「こういう場面で必要になるから、用意したほうがいいよね」とか、「これで代用できそうかも」とか。
他にも、地震が起こったら、どこに逃げるのか、家にとどまるのか。水害が想定されるなら、どのルートで逃げるのか、など、考えるべきことはたくさんあります。
なるほど、ある程度は考えておかないと、いざというとき動けないですよね。
一番よくないのは「考えないこと」です。怖いから考えたくないとか、考えたくないから100%の答えだけを教えてほしいというのも、ダメですね。
では、今私たちがこうして長柴さんに教えてもらいながら考えるというのは、良いことなんですね。
はい、とても大切ですよ。この際なので、聞きたいことがあれば、どんどん聞いてください。
突如現れた、想定浸水深の看板!?まずは正しい情報を
実は最近、地元で「想定浸水深(そうていしんすいしん)○メートル」と書かれたものを見かけるようになって…。
突如出現した感じで、ちょっと怖いなって思っちゃったんですが、何なんでしょうか?
国土交通省が発表した、河川の氾濫などによって浸水する深さを表したものです。地域のみなさんにリスクを把握してもらうのに役立つから、私なんかは「設置されて良かったな」と思っていましたが、一般の方からすると怖くなっちゃったんですね。
「設置する」という情報を受け取ったうえで見ていれば、そんなふうには思わなかったかもですが、正直、驚きました。
周知が足りていないってことですよね。行政からの発信を知らない場合、情報を得るにはどうすればいいと思いますか?
さっきの大阪防災アプリには、雨雲レーダーがついていました。これって結構見ている人が多いと思うので、「誰もが毎日見るもの」とセットで防災の情報が見られるようになっていると、良いのかなと思いました。
それも一つのアイデアですね。
こちらから積極的に情報を得るって姿勢は、必要ですね。
はい。スマホに慣れているなら、まずは「防災」と調べてみる。慣れてくれば、「東大阪市 防災」など、自分の地域のことをさらに深く調べる。フェイクニュースかそうでないか見極める力も大切ですね。「正しい情報を得る」ことが、防災への第一歩になると思います。
情報を得たら、次は伝える
口コミもやっぱり大事だなって思います。私は、地域の情報発信や校区社協の仕事をしているので、比較的情報を得ているほうだと思います。
行政の情報を、同じ市に住む家族や知人に話すと「知らなかった」といわれることが多いんですよね。特に高齢者の方は、情報弱者になっている可能性が高いと思います。
確かにそうですね。やっと家族とLINEができるようになったという高齢者の方などには、口コミが有効だと思います。年齢が上がれば上がるほど、ネットよりも紙の情報。紙よりも会って直接話すというのが大切ですよね。
会って話すといえば、自治体では「防災出前講座」というのも、やっているんですよ。
出前講座って、何ですか?
防災の専門家から学んだ内容を自治体の担当者が出向いて教えてくれる、というものです。でもこれも「呼ばれれば行く」というスタンスなんですよね。知らないと呼ぶこともできないですよね。
高齢者の方向けに開いてもらうと良さそうですね!お一人暮らしの方もいらっしゃいますから、不安に感じている方は多いと思います。
それはぜひ、声をあげてください。必ず実施していますから。気象庁による出前講座もありますよ。
情報を得たら、周りに伝える。知り合いに話してもいいし、SNSで発信してもいい。災害は人任せではなく、「みんなで力を合わせる」ことが大事です。いざというときのためにも、多くの人が正しい情報を知っておくことは、とても大切です。
情報を得るだけではなく、地域に目を向けることも大事
私たち一般人のレベルでは、「情報を得る」「得た情報を伝える、発信する」そして「考え続ける」のが大事だということですね。
もう一つ、「周りをよく見て考える」というのも大切ですよ。
周りを見るとは、どういうことでしょうか?
うちの近所では電柱に沿って、ずらーっと木が並んでいたんです。葉っぱが生い茂っていて街頭が見えなかったんですよ。
それで、葉っぱをカットしてくれた後の写真がこれなんですけど。わかりますか?
いや、ちょっとわからないです。
葉っぱがなくなってわかったんですけど、枝の間に電線が張り巡らされていますよね。もし台風がきて木が1本でも倒れたら、電線が全部ダメになっちゃうと思いませんか?
なるほど。そういわれれば…。
防災の目線で考えると、もっと低い位置でカットしてくれれば良かったのに…と思いますよね。
そういう視点をもって、自分の街を見てもらえると良いなぁと思います。
とても勉強になりました!
防災のプロが伝える一番大事なことは「防災について一人ひとりが考える」こと
今回も、とても役立つお話を、ありがとうございました。これを機会に私たちも「防災について考える力」をもっと身につけられるようにがんばります。
この記事を読んでくださった方も、「自分自身の命を守るための防災」について、考えてもらえたらうれしいです。
※この記事の内容は、2024年4月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。