マニアックDIY
地方開催ワークショップが成功した理由は「地道な広報活動」と「オリジナルメニュー」

地方開催ワークショップが成功した理由は「地道な広報活動」と「オリジナルメニュー」

14

2024

Jun

和気産業ではこれまで、数々の子ども向けワークショップを開催してきました。2020年1月から2024年3月までは、大阪南港ATCに拠点を構え「キッズDIYキャンプ」を定期的に開催すると同時に、本社のある東大阪市や東京の恵比寿などでも開催。

そしてもう一カ所、滋賀県日野町でも開催していたことをご存じでしょうか?大阪や東京といった大都市に比べ、日野は滋賀県の中心から少しはずれた、人口約2万人(令和6年3月末現在)の小さな町です。ATCのワークショップで培ったノウハウだけでは開催自体も難しいと思われる中、2年間で11回ものワークショップを企画・実行したのが、和気産業の栗栖さんです。

今回は、その栗栖さんに、いいものマガジン編集部員社外スタッフとして2016年より関わってきたライターの坂田がお話を伺いました。

日野でワークショップを行うことになったきっかけ

坂田
坂田

和気産業さんが「キッズDIYキャンプ」を立ち上げ、ワークショップを行われていたのは知っていましたが、日野で11回も開催されていたとは初めて知りました。なぜ日野で開催しようと思われたのですか?

栗栖さん
栗栖

道具や工具など、専用の道具を使う機会が減少する中で、興味があるけど機会がない子どもたちに、体験の場を提供する「キッズDIYキャンプ」。それが子どもにも保護者の方にも好評だったので、私の勤務地である「日野」でもできないかと考えたのがきっかけです。

坂田
坂田

なるほど。日野には和気産業の物流センターがありますよね。

栗栖さん
栗栖

はい。本社にあるようなスペースを日野にも作りたいなと思って、2021年6月にイベントルームを作ったんです。それも、きっかけの一つですね。

日野営業所のイベントルーム
坂田
坂田

イベントルームを作ったんですか?

栗栖さん
栗栖

社内(日野の別部署の人たち)の人と一緒に、ATCのワークショップスペースで使ったものと同じ床材を貼ったり、廃棄予定なっていた珪そう土壁材やクッションフロアマット、みかけレンガ等を使ったりして、イベントルームを作りました。

日野営業所イベントルーム施工中の様子
栗栖さん
栗栖

当時コロナ禍でおうちキャンプが流行っていたこと、和気産業のワークショップ事業の活動名がキッズDIYキャンプに決まったこともあり、「キャンプ」をコンセプトに空間を作り上げたんです。

坂田
坂田

なるほど、DIY専門商社さんならではの発想と行動力ですね!

栗栖さん
栗栖

社内の人がキャンプグッズ(テーブルやイスやランタン等)をたくさん持ち込んでくれたので、普段は、休憩場所や商談場所、ミーテイング場所として活用しています。

ATCとは異なる「メニュー選定」「集客」とは

坂田
坂田

日野でのワークショップ開催は、ATCと比べて異なる点もあると思いますが、どんなことを意識されましたか?

栗栖さん
栗栖

まずはワークショップのメニューですね。基本的には、ATCですでに開催されたものをベースにしていますが、同じ価格設定で行うのは、ちょっと難しいなと。

ATCは「ワークショップ」自体が定着していますし、そこならではの費用感もあります。でも日野で行う場合は、お子さんがお小遣いで払える範囲、できればワンコイン程度が妥当だと考えました。

日野イベントルームで開催したワークショップの様子
坂田
坂田

そうですね。私が住んでいる地域でも、お子さん向けの数千円のワークショップは、なかなか厳しい気がします。高くても1,000円以内とか…。

栗栖さん
栗栖

そうなんです。なので全く同じメニューではなく、材料を代えたり、工程をシンプルにしたりすることで、低価格で行えるよう考えました。 

また、1人で講師と顧客対応、金銭管理、案内などの雑務を行うので、その対応が可能であることも必要でした。

もう一つは集客です。大阪で有数の集客力を持つ複合施設ATCとは異なり、基本的に日野町もしくは近隣に住むお子さんたちが対象となる場所です。なので、同じような集客方法では、きっと集まらないだろうと思ったんです。

坂田
坂田

具体的には、どのように集客したのですか?

栗栖さん
栗栖

コストをかけられないこともあり、無料でイベントへの参加者を募集できるサイト「いこーよ」「ジモティ」を活用しました。他にも、地域限定の情報サイトや情報誌への掲載依頼を電話で行いました。地域の情報サイト「シガミル」は無料でイベント掲載許可をいただけたので、初期の頃はよく利用していました。地域の情報誌は有料だったので断念しました。

坂田
坂田

なるほど、「地元の方が見る媒体」にアプローチをかけたわけですね。他にはありますか?

栗栖さん
栗栖

チラシを自作し配布するという方法も試みました。民間営利企業のチラシ配布・設置の扱いがわからなかったので、地元の日野町公民館7カ所、図書館1カ所、日野町学童の理事長、それぞれに電話連絡をとりました。和気産業ワークショップ開催の主旨を説明することで、設置や配布の許可をいただきました。

坂田
坂田

それをすべて1人でこなされたんですね。すごい!

同じ日野でも開催場所により異なる客層、その対応は?

坂田
坂田

実際、どんなワークショップを行ったんですか?

栗栖さん
栗栖

最初は日野のイベントルームで行いました。ストリングアートの写真立て、木製スツール、透明ペンケース作りなどです。お子さんが「木を切る」という体験は、なかなかできないだろうと思って、木工体験を企画しました。

日野ワークショップ 木工体験
栗栖さん
栗栖

非日常的な体験が良かったのか、お子さんにも保護者の方にも好評でした。

坂田
坂田

そういった大がかりなものもあれば、別の会場では「クリスマスリース」「フラワーベース」「ロボットキーホルダー」など、小さなワークショップをいくつも体験できるものもあったようですね。

日野文化祭ワークショップ
栗栖さん
栗栖

それは、近くの公民館で行われる文化祭のときですね。お声がけいただいたんですよ。

坂田
坂田

「噂を聞きつけて依頼された」という感じですか?

栗栖さん
栗栖

当初、フィールドワークを兼ねて、一カ所ずつチラシを配布しながら挨拶に行ったんです。その際、地域の「子ども向けイベント開催状況」や、「子ども会運営」についてヒアリングすることができました。そんな中、それぞれの地域主催のイベントへの出張参加のご要望があることが、わかったんです。このご縁で、日野事業所から一番近い公民館(東桜谷公民館)に、毎年秋に開催される文化祭のイベントの一環で子ども向けのワークショップをやってほしいという依頼をいただいたんです。

坂田
坂田

なるほど、そういう経緯でしたか。栗栖さんの地道な活動が実を結んだわけですね。

栗栖さん
栗栖

そんな感じで、大きく分けて「日野イベントスペースワークショップ」と「出張ワークショップ」を行うようになりました。

坂田
坂田

日野イベントスペースワークショップと出張ワークショップでメニューを変えられたようですが、会場によって何か違いがあったんですか?

栗栖さん
栗栖

客層が異なります。

出張ワークショップは、参加者が地元のお子さんやご家族なので、参加者同士が顔見知りであることが多かったです。講師の話を静かに聞くというより、ワイワイガヤガヤした楽しい雰囲気でした。また、文化祭をはじめ、数あるイベントのひとつとしてワークショップがあるというスタイル。他のイベントにも参加したいお子さんたちに合わせて、臨機応変な対応が求められました。大事なのは、お祭り感を楽しめる場作りかなと思いますね。

日野文化祭ワークショップ2
栗栖さん
栗栖

中でも、文化祭にはここ3年出店させてもらっていますが、参加者が地元の子どもたちなので、毎年同じ子どもたちに出会います。そういう意味では9割リピーターですね。1年に一度しか出会わないですが、久しぶりに出会った子ども達の成長を、頼もしく感じます。

坂田
坂田

それは貴重な体験ですね。続けることって大事だなと思います。では日野イベントルームの客層は、どんな感じなのですか?

栗栖さん
栗栖

遠方からの参加者も含め、ワークショップのメニュー自体に魅力を感じてわざわざ参加しに来ている方が多いと思います。そのため、ワークショップの構成も元々「キッズDIYキャンプ」で行っていることと近い内容で進めていくことができます。

客層という観点では、比較的器用な子や工作や絵画が好き、得意な子が多いです。また、ワークショップ中の待ち時間を過ごす場所がほぼないという、事業所の立地の問題で、親子参加が多いのも特徴です。全参加者ではないですが、大人に見守られながら子どもが「もの作りに取り組む」という光景がみられます。

回数を重ねることで見えてきたワークショップ開催の秘訣。意外な発見も!

坂田
坂田

先ほど遠方からの参加者という話がでましたが、それはどういったワークショップでしたか?

栗栖さん
栗栖

GWや夏休み中に開催したワークショップです。神戸や京都、問い合わせだけでしたが、福井の方もいらっしゃいました。

坂田
坂田

すごい。やはりネットの力ですかね。

栗栖さん
栗栖

そうですね。工作などが好きなお子さんは一定数いて、調べていらっしゃるんでしょうね。

2022年のGW中のワークショップでは、コロナ禍ということもあり集客がほとんどできなかったのですが、大阪から参加してくれた方に聞くと、混んでない場所への家族ドライブを考えていたときに、ワークショップ開催を知って参加したとのことでした。

お盆時期の開催では、集客を狙って木工を中心にしたメニューを考えたので、ウェブでの検索にもヒットしやすかったのかもしれません。滋賀県内からの参加でも地元の日野町ではなく、車で1時間弱かかる場所からの参加者も一定数いました。このことから、「いこーよ」や「ジモティ」での集客に、十分な効果があると推測できますね。

坂田
坂田

なるほど。実際に企画、開催したからこその気づきですね

日野ワークショップ 貯金箱制作
栗栖さん
栗栖

余談ですが、福井県の方からの問合せは、夏休みの工作の宿題が「貯金箱」を作ることだったそうで、「どのような貯金箱を作るのか?」「小1にもできるか?」という内容でした。

坂田
坂田

「夏休みに貯金箱を作る」という課題を出している小学校は、今もあるんですね。

栗栖さん
栗栖

私も、そう思いました。

もう一つ、大阪からの参加者のお話から、日野ならではだと感じたことがありました。お子さんが大人しい性格なので、大人数のワークショップでは、物怖じして集中できない。参加人数の設定が少ないワークショップを探していたとのことだったんです。実際にご参加いただき、「子どもが自由に時間を気にせず集中して楽しめて良かったです」という評価をいただき、うれしかったです。

ATC開催も含め「キッズDIYキャンプ」のワークショップは、子ども自身が考えたり工夫したりできるようなメニューにしているので、そういった点でもお子さんや保護者の方の満足度が高いのではと思います。

坂田
坂田

確かに。簡単すぎず、「お子さんにはちょっと難しいけど、がんばればできる」といった、達成感のありそうなメニューが多いですよね。そこは、DIY専門商社の和気産業さんならではの企画だと思います。

日野でのDIYワークショップを開催して、今思うこと

和気産業 栗栖さん
坂田
坂田

ATCでのワークショップにも、いろいろ苦労があったようですが、日野での開催も、やはりさまざまな工夫があったんですね。振り返ってみて、「良かったな」と思うことは何ですか?

栗栖さん
栗栖

ひとつは、会社として地域とつながりを作れたことです。地元の工業団地にある企業として、近隣からたくさんのパートさんを雇用していますので、地域のイベントに参加するという社外での活動は、パートの雇用に役立つこともあると思っています。また、「学生の時に和気産業でバイトしていました」とイベント出店時にスタッフとしてサポートしてくれる方もいて、うれしかったです。

坂田
坂田

なるほど。お聞きしていると、ワークショップでの金銭的な収益は少なそうですが、それ以上のメリットがあるということですね。

栗栖さん
栗栖

ワークショップは地域貢献活動であり、収益を越えたメリットを生み出していると思います。

また、DIY関連のワークショップの需要があることを、改めて知れた点も良かったことのひとつです。日野イベントルームのワークショップも、出張ワークショップ同様、近隣の子どもたちを対象に集客していましたが、遠方からの思わぬ参加者がいることがわかりましたから。子どもに経験させてみたいと思ったら、たとえ遠くても参加したいと考える方がいるんですね。他ではやっていない子どもファーストのオリジナルメニューを企画することが、やはり大切なのだと思います。

坂田
坂田

今回のお話は、ワークショップだけでなく、「地方でのイベント成功のヒント」が、いろいろ隠されていたように思います。ワークショップを企画したい方や、地方でのイベントを考えている方などの参考になればうれしいです。

※この記事の内容は、2024年4月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。

2024.06.14
マニアックDIY