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「DIYワークショップ」開催担当の新人スタッフが4年間の経験で得た学びや失敗をセキララ告白

「DIYワークショップ」開催担当の新人スタッフが4年間の経験で得た学びや失敗をセキララ告白

25

2024

Jun

和気産業では、2019年から「子ども向けワークショップ」を開催してきました。そして、2024年3月に、拠点としていたATC「Robo&Peace」から、卒業することになりました。
もちろんワークショップ自体を卒業するわけではなく、新たな場所や形を模索しながら、続けていきます。

拠点を構えた2年目からワークショップを担当したのは、何と当時新入社員だった、あらいもんとにピのコンビ。DIYの知識もあまりなく、和気産業の社員としても、まだひよっこでしたが、さまざまな工夫をしながら開催してきました。2020年からは新型コロナ感染症拡大の影響を受け、オンラインとリアルをつなぐハイブリッド開催に切り替えるなど、悪戦苦闘しながら担当を続けた2人。

今回は、彼女たちの4年間の歩みと、今後のワークショップへの思いについて、いいものマガジン編集部員社外スタッフとして2016年より関わってきたライターの坂田が聞きました。

入社1年目の大抜擢!?ワークショップ担当になって

坂田
坂田

初めて「ワークショップ担当」を任命されたときは、どう思いましたか?

新井さん
あらいもん

メディアプロモーション室の仕事の一環だったので、気がついたらワークショップをしていたという感じです。大学時代に学童保育で先生のバイトをしていたので、子どもの対応に慣れていたのは、よかったなと思いました。

坂田
坂田

なるほど。お2人は新卒で入社されていますから、大役を任されたというよりは、業務の一つという感覚だったのかもしれませんね。

西岡さん
にピ

そうですね。しかも2020年4月入社だったので、そのタイミングで世間はコロナ禍に。自分自身は会社や業務のことがわかっておらず、会社側も緊急事態宣言などのイレギュラーな事態への対応に追われていたのか、バタバタしていた印象でした。

新入社員研修の内容が一部変更になったり、入社2週間で突然在宅勤務になったりと、「おそらく入社前に想定されていたこととは違うことをしているのだろうな」と思うことばかり。

ワークショップはその怒涛の日々の中で「よくわからないけど、いつの間にか担当することになっていた」という感じでした。

坂田
坂田

なるほど。とにかくやるしかないという感じだったんですね。最初は、何から始めたんですか?

ワークショップ担当のあらいもんとにピ
新井さん
あらいもん

子ども向けワークショップということで、まずは2児のママでもある、先輩の栗栖さんに母親の立場から、ワークショップについてお伺いしました。

西岡さん
にピ

そうしたら、子どもは学校の図工をはじめ、何か作って最初は喜んでもすぐに忘れてしまう。あまり簡単すぎるものだと思い入れもなく、どこかへやってしまう。それは、保護者としてあまり喜ばしくないと…。

新井さん
あらいもん

なので、まずは「作って満足して終わり」ではなく、「作ったからこそ大事にしてもらえるもの」「部屋に飾るなど、使いたくなるもの」にしようと思いました。

坂田
坂田

母親目線からすると、うれしい考え方ですね。他にはありますか?

新井さん
あらいもん

予算があること、またサステナビリティの観点から、「和気産業で廃棄処分になるものを、なるべく生かせるように」ということも考えました。

坂田
坂田

廃棄品って、そんなにあるんですか?

西岡さん
にピ

はい、廃番になった商品など、意外とあることがわかりました。

坂田
坂田

廃棄処分になる材料を使い、それを「使えるものとして生まれかわらせる」って、結構ハードルが高いですね。

新井さん
あらいもん

すべてが廃棄処分となる材料というわけではないですが、「何とか使えないか」「生かせないか」いろいろ頭を悩ませました。

坂田
坂田

実際4年間の間には、「ストリングアート」「グルーガン工作」「ビニールシート」など、本当に数多くのワークショップを企画・開催されてきましたよね。今日はその中でも特に思い出に残っているという2つの企画についてさらにお伺いします。

人気企画をブラッシュアップした「アクリルペンケース」

西岡さん
にピ

一つ目は「アクリルペンケース」です。

坂田
坂田

これは、どういった経緯で作ることになったんですか?

新井さん
あらいもん

私たちが入る前から行われていて人気だったのが、アクリルを使ったツールボックスでした。

アクリルツールボックス
新井さん
あらいもん

アクリル板を組み合わせて専用接着剤で貼り合わせ、取っ手やストロング掛け金、ねじを使って取り付けていました。

西岡さん
にピ

取っ手やストロング掛け金は、ピンクやブルーなど「子どもが好きそうなのでは?」というカラフルなラインアップでそろえたのですが、実際は違って。子どもたちはとにかく「金色」が大好きということも知りました。

坂田
坂田

金色好き、それは面白い(笑)。

新井さん
あらいもん

当時の担当者は、慌てて「金色の取っ手を買いそろえる」ということもあったようです。

坂田
坂田

それだけ人気だったアクリルボックスを、なぜ「アクリルペンケース」に変更したんですか?

新井さん
あらいもん

いくつか問題点が見つかったからです。

一つは、接着です。アクリルボックスは、専用接着剤を使っているのですが、実はこれが難しくて…。接着面積が少なく、上手に流し込まないと、しっかりくっつかないし、キレイに接着できないんですよ。

そこで当時は、和気産業のスタッフが仕上げ部分を担当する形になり、お子さんたちは「え、自分のやり方じゃダメなの?」みたいな雰囲気になってしまって…。

坂田
坂田

なるほど。そうなると、達成感がないし、「チェッ」って思っちゃいそうですね。

新井さん
あらいもん

そうなんです。もう一つの問題はコスト面です。定期開催を始めた当初は、あまりコストについて考えてはいなかったのですが、回数が増え、参加者も増え…となってくると、そういうわけにもいかず。

接着の問題を解決するために、接着面が増えるようアクリル素材を増やせば、コストはさらに上がる。なかなか難しい状況でした。

坂田
坂田

それでサイズ感を変えた、新しいものとして「ペンケース」を考えたわけですね?

アクリルペンケース
西岡さん
にピ

そうなんです。素材のパーツに穴や凹凸をつけて組み立てやすいよう工夫しました。結果的に接着面が増えて、より接着しやすく頑丈になりました。また、デコパージュを利用し、かわいく仕上げるなど、考えました。

アクリルボックスとアクリルペンケースの違い
新井さん
あらいもん

ただ、ここでも問題が。それは「ペンケースをどう閉められるようにするか」です。ツールボックスのときのように大きなストロング掛け金は使えません。そこで、磁石と金具を使ってピタッと閉じるような構造を考えたんです。

アクリルペンケースは、磁石と金具を使ってピタッと閉じる構造に。
坂田
坂田

実際のペンケースなどでも使われているような手法ですね。それは良さそう!

新井さん
あらいもん

私もそう思ったんですが、また落とし穴が…。何と、使用していた金具の製造が終了しまい、使えなくなったんです。

坂田
坂田

何と!代替品も見つからなかったんですか?

新井さん
あらいもん

はい、ちょうどよいサイズ感のものがなくて。そこからはネット検索などしてアイデアを探す毎日。そんな中、思いついたのが、お弁当箱のフタが開かないようにバンドを使って止める方法です。

坂田
坂田

ん?どんな感じですか?

新井さん
あらいもん

バンドがわりにPVCを使って、くるっと巻くようなイメージです。

PVCをくるっと巻いて止めるようにしたアクリルペンケース
接着剤を使わず、本体にPVCを通し、ボタンでかしめる方式に。
新井さん
あらいもん

ただ、これも「接着をどうするか」というハードルがありました。PVCとアクリルをとりつけようとすると、専用接着剤を使うか、多用途接着剤を使う必要があります。専用接着剤は子どもには難しいし、多用途接着剤はオープンタイムが必要になるなど問題が発生します。そこで、接着剤を使わず、本体にPVCを通し、ボタンでかしめる方法を思いつきました。

接着剤を使わず、本体にPVCを通し、ボタンでかしめる方式に。
坂田
坂田

なるほど!これなら問題解決ですね!

新井さん
あらいもん

はい、これを思いついたときは、思わず心の中でガッツポーズをとりました(笑)。

夏休みには超大作づくりも「スチロール工作」

新井さん
あらいもん

なかなかの超大作ワークショップになったことで印象に残っているのが、スチロール工作です。スチロールカッターを作るところからスタートしました。

坂田
坂田

道具から作ったんですね!それはまた、他とは違うアプローチだと思いますが、きっかけは何だったのですか?

新井さん
あらいもん

ATCでワークショップを続けているうちに「電子工作のワークショップをやりませんか?」というお誘いをうけたんです。電子工作なんて考えてもいなかったので、最初はかなり戸惑ったのですが…。

ちょうどその頃、和気産業の廃棄品として大量の発泡スチロールが倉庫に眠っていたんです。

倉庫に眠る大量の発泡スチロール
新井さん
あらいもん

それで、発泡スチロールを使うワークショップ+電子工作ということで、「スチロールカッターしかない!」って思ったんですよね。

坂田
坂田

なるほど~。でも、スチロールカッターなんて、子どもに作れるんですか?

新井さん
あらいもん

これは、私には知見がないし、会社にもありませんでした。なので、とにかく検索しまくったんです。そうしたら、100均でもスチロールカッターを販売していることがわかって。

その構造を勉強してみると、「何とか作ることができそう。でもワークショップで100均にあるようなものを作っても面白くないな」と思い、大きな発泡スチロールを切れるように…など考えました。

スチロールカッター
新井さん
あらいもん

実際、構造はニクロム線に電気を通せば切れるという、簡単なものでした。

坂田
坂田

いくら簡単なものとはいえ、子どもが作れて使えるものを、いちから作り出すって、大変ですよね。

新井さん
あらいもん

正直、私もなぜ上手くいったのかわからないです(笑)。

西岡さん
にピ

実際のワークショップでは、「①スチロールカッターを作る②作ったスチロールカッターで発泡スチロール工作をする」という流れにしました。

最初は「自由に作ってもらう」ことにしたのですが、アイデアがある子はすぐに作り出すんですが、「何を作ればいいかわからない…」と戸惑ってしまう子もいました。

新井さん
あらいもん

ちょうど、インターンシップにきていた学生に手伝ってもらっていたときだったので、アイデアを出してほしいと頼んだら「パズル」を考えてくれたんです。

スチロールカッターで作る、発泡スチロールパズル
坂田
坂田

おぉ~これは面白いアイデアですね。

西岡さん
にピ

スチロールカッターを使うから、キレイに切れる。だからパズルとしても上手にハマる。ということで、お子さんたちも喜んでいました。

坂田
坂田

でも確か、このワークショップって、夏休みに大がかりなものを企画されていましたよね?

新井さん
あらいもん

そうなんです。発泡スチロールが大量に残っていたこともあり、夏休み3日間にわたって開催する「スチロールカッターを使って、立体造形にチャレンジ」という企画を考えたんです。

夏休みの自由研究に!スチロールカッターを作って立体造形にチャレンジ!
西岡さん
にピ

まず、参加する日を3日選んでもらいます。卓上スチロールカッター作りは一斉に行ってもらいますが、残りの時間は開催中好きなタイミングにきて作業できるスタイルにしたんです。

坂田
坂田

工作好きなお子さんにとっては、たまらない企画ですね!

新井さん
あらいもん

この3日間でしっかりと「自由研究」として提出できるものに仕上げるため、西岡さんには「ワークシート」を作ってもらい、最後はオンラインでの発表の場も設けました。

最終日の発表会や夏休みの宿題で役立つワークシートも用意
坂田
坂田

保護者の方も、満足してくれそうな企画ですね(笑)。

新井さん
あらいもん

はい、おかげさまで好評でした!3日間ずっと会場にこもりっきりの子もいて、仲良し3人組ができたり、1人で黙々と作業する子がいたり、それぞれの個性がでていて、それも興味深かったですね。

仲良し3人組

ATCでの開催を終えて、今後の展望

坂田
坂田

定期的なワークショップ開催。思った以上にお2人が苦労されたことがよくわかりました。でも、楽しまれていたようにも思います。

新井さん
あらいもん

もともと「わからないことは、何でも調べる」タイプなので、それがワークショップには役立ったかなと思います。先輩方に聞いたり、自分で調べたりしながら、子どもさんが喜ぶワークショップが企画できたときは、やっぱりうれしかったですね。

あと、私はいくつかの条件がある中から「これができるんじゃないか」「あれができるんじゃないか」と考えることは比較的得意ですが、西岡さんは「何もないところから作り出す」ことが得意で、うまく役割分担ができたかなと思います。

坂田
坂田

確かに。お2人のことは入社されたときから見てきましたが、論理的なあらいもんと、芸術的なにピという感じ(笑)。お互いの長所をうまく組み合わせて、お仕事されているなと思っていました。

ワークショップ担当のあらいもんとにピ
西岡さん
にピ

ワークショップのメニューづくりは新井さんががんばってくれました。私は、絵を描いたり、作品を作ったりが得意なので、そっち方面でがんばりましたね。

坂田
坂田

今後は、どんなワークショップを行いたいですか?

新井さん
あらいもん

DIYをやってみたいけれど踏み出すきっかけがないという大人向けのメニューや、ビニールシートを使ってもっと実用的なもの、バッグなんかを作るメニューを企画したいです。

西岡さん
にピ

ワークショップに付属する「材料の知識を深めるアニメーション」や「ワークシート」などを作る機会が多いんですよね。だから、「そこで学んだことを、帰ってから家族や友達に話したくなる」ワークショップになるようなサポートを、今後もできればと思います。

「とにかくやってみよう」のチャレンジ精神爆発のワークショップ。今後に期待

あらいもんとにピ、2人が試行錯誤しながらやってきたワークショップ「キッズDIY」。いいものマガジンでも、何度もキッズDIYについて、取り上げてきましたが、お2人が本当に一生懸命取り組んで来られたことがよくわかりました。

それにしても、そういった大きな企画を、2人の新人に任せるというのは、「和気産業さんならでは」といった気がします。2人が所属するメディアプロモーション室の室長で、いいものマガジン編集長でもある鈴木さんは、「未経験が強みになった、よい例だったのでは」とおっしゃいます。

改めて「ダメといわない。とにかくやってみよう」の社風が、このワークショップ成功の鍵だったのかなと感じました。今後のワークショップにも、期待したいですね。

※この記事の内容は、2024年4月時の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。

2024.06.25
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