磁力を与える「着磁」がなければ、磁石は完成しない!磁石の種類から歴史まで、工場見学で知った「磁石のお話」
11
2024
Mar
みなさんは磁石がどんなふうにできているかご存じですか?
いいものマガジン編集部員は「磁力をもった天然の鉱石のようなものがあって、それを元に作られている」と思っていたのですが…。
実は全然違いました!
今回は、日本磁石工業株式会社さんの工場見学を通じて知ったお話をご紹介します。
INDEX
「着磁」という工程を加えなければ磁石は完成しない!
磁石の工場では、どんなことが行われているのですか?
弊社ではさまざまな磁石を扱っていますが、どんな磁石も「着磁」をしなければ磁石にならないというのはご存じですか?
え?着磁って何ですか?
磁性材料と呼ばれる原料に、磁力を与えることです。
えー! 磁力を帯びている鉱石のようなものが存在していて、それを加工して磁石にしているのだとばかり思っていました。着磁ってすごい技術なんですよね。きっと…。
すごいというか…。なくてはならない技術ではありますが、作業は一瞬で終わるんですよ。
え、ほんとにあっという間ですね。
着磁があれば「脱磁」も!どこで使われる技術?
はい。機械さえあれば一瞬で終わります。ちなみに着磁の反対、脱磁もあります。
磁力を抜くってことですか?
はい、そうです。例えば、アナログの時計。磁力を持ってしまったため、正常に動かなくなってしまうということありますよね。そんなときは脱磁を行えば、直すことができるんです。脱磁装置をおもちの時計屋さんで、修理することができるんですよ。
へぇ~そうなんですか! もう最初から驚きの連続です。
じゃあどんな素材でも「着磁」さえすれば、磁石になるってことでしょうか?
いや、それはできませんね。着磁可能な原料「磁性材料」と呼ばれるものが対象となります。
磁性材料から分けられる「磁石の種類」
磁性材料って、どんなものがあるんでしょう?
もっともポピュラーなのが酸化鉄ですね。材料の違いで磁石の呼び名が変わります。フェライト磁石、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石などがありますよ。
フェライト磁石 | アルニコ磁石 | サマリウムコバルト磁石 | ネオジム磁石 | |
---|---|---|---|---|
主原料 | 酸化鉄 | アルミニウム・ニッケル・コバルト | サマリウム・コバルト | ネオジム・鉄 |
特徴 | コストパフォーマンスの面で最も優れた磁石。 サビないというメリットがある。 | 温度変化に強い。 磁力が強い。 しかし主原料の高騰により、国産ではほとんど作られなくなっている。 | 温度変化に強い。 磁力が強い。 アルニコ磁石同様、主原料の高騰という問題が起こっている。 | 現在の磁石の中では最高磁力をもった磁石。 サビやすい、熱に弱いというデメリットがある。 |
サマリウム・コバルト・ネオジムなどは、貴重なレアアースですもんね。となるとやはり市場に出回っているのは「フェライト磁石」が中心ということでしょうか?
一般消費者が使っているのは、フェライト磁石が中心でしょうね。ネオジム磁石の場合、価格も高くなりますから。
ちなみにネオジム磁石は日本人が発明したんですよ。
え、そうなんですか?
インターメタリックス顧問の佐川眞人氏が、ネオジム磁石を発明したのは1982年です。それまで最強とされていたサマリウムコバルト磁石の2倍近い磁力をもつという、画期的な磁石でした。佐川氏は、ノーベル賞候補にもあがるほどの人物です。
そんなすごい磁石を日本人が発明されたって、何だかうれしいですね!
先ほどからお聞きしていると、磁石の主原料はすべて「硬い素材」ですよね。ゴムやプラスチックのような特殊形状の磁石も世の中にはあると思うのですが、それはどうやって作るんですか?
磁性材料と別素材を混ぜたボンド磁石
「フェライトとゴム」「ネオジムとプラスチック」など、磁性材料に別素材を混ぜて成形することで、ゴム製の磁石やプラスチック製の磁石を作ることができます。
これらの磁石を、ボンド磁石といいます。
じゃあ、家のポストなどによく入れられているマグネットシートの広告は、フェライトとゴムで作られたボンド磁石なんですね。磁力がかなり弱い気がします。
実は、過去に「マグネットシートをネオジムなどの強い磁石でこする」という実験をしたことがあるんですよ。そうすると、磁力が失われてしまいました。
キャッシュカードやクレジットカードの磁力がなくなってしまうのと同じ原理ですね。
なるほど、そういうことなんですね。
そういえば、弊社はマグネットシートへの着磁を得意としているのですが、それは「多極着磁」っていうんですよ。
N極・S極だけじゃない?マグネットシートはシマシマ模様の多極磁石
多極?また知らない言葉が出てきました。磁石ってN極とS極だけじゃないんですか?
一般的にイメージするのは「N極」と「S極」がハッキリ分かれている磁石ですよね。小学校の頃に見た、U字磁石とか棒磁石とか。
目には見えませんが、N極からS極へと磁力線が向かっていると習ったと思います。
はい、それは覚えています。
マグネットシートにも、もちろんN極とS極があるんですが、ちょっと特殊なんですよ。特殊なフィルムを使うと「磁力」が見えます。
わ、これ何ですか?シマシマになってる…。これが磁力ってことですか?
はい。シマシマの黒い部分はN極またはS極部分で、黄色い部分がニュートラルというどちらでもない状態です。N極とS極を並べることで自然にできる現象で、磁力線の距離が短くなる分、磁力が強くなります。
いろんな着磁技術があるから、いろんな磁石製品が作れるということなんですね。
弊社では、両面多極、片面多極、外周多極、内周多極など、さまざまな着磁作業を行っています。
最近では、シートタイプのマグネットもいろいろ出ていますよね。マグネットシートの広告と違って、磁力の強いものが作れるのは、こうした着磁作業の違いによるんですね。
コストをあげずに磁力をアップさせる、ヨーク付き磁石
着磁作業の違い以外で、磁力をアップさせる方法ってあるんですか?
ヨーク付き磁石がそうですね。磁石にヨーク(継鉄)を付けることで、低コストで磁力をアップすることができるんです。
なるほど、コストをかけずに磁力をアップさせる方法を、いろいろと考えられているんですね。
磁石の歴史は紀元前。自然の産物だった!?
今回最初に「着磁しなければ磁石にならない」とお聞きしましたが、そもそも磁石って、いつ誕生したんですか?
実は磁石の歴史はかなり古く、何と紀元前3000年頃といわれています。ギリシャのマグネシア地方で採掘されたのが初めてといわれているようです。
え?やっぱり採掘なんですか? 着磁技術は必要なかったと?
諸説あるようですが、一見鉄の塊にみえる鉱石が、鉄製品を吸い付ける不思議な働きをもつ鉱石として珍重されていたようです。雷など、何らかの自然現象により磁気を帯びたと考えられているようですね。
そういうことなんですね。
自然の産物といえるのかもしれませんね。ちなみに、マグネットは地名にちなんでつけられたそうです。一方、磁石という名前の由来は中国です。中国の慈州には、磁石の材料となる磁鉄鉱の産地があったんです。その地名から「慈石」のちに「磁石」となったそうですよ。
興味がつきない「磁石」。国産磁石の工場では小さなものから大きなものまで
磁石の歴史がそんなに古いとは驚きでした。今回は、磁石についてさまざまなお話をお聞きできて、大変勉強になりました。
工場見学では、品質重視の国産磁石が、いかに丁寧に精密に作られているかがわかりました。工業用の磁石などは、企業ごとにオーダーメイドで作られているんです。神経を集中して行わなくてはならない小さなものから、大型モーターなどの加工組み立てまで、見せていただきました。
本当にありがとうございました!
※この記事の内容は、2018年のいいものマガジン紙面に記載した内容を元に、2024年新たに取材した話を加えて作成しています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。