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開発担当はわずか2人!ヒット商品連発「建築の友」の商品開発に迫る

開発担当はわずか2人!ヒット商品連発「建築の友」の商品開発に迫る【開発秘話】 

04

2025

Feb

株式会社建築の友をご存じですか? 

名前だけ見ると、建築の会社のように思いますが、実は補修剤などのDIY用品を企画・開発しているメーカーなんです。フローリングのキズを補修できる「かくれん棒」や、鍵の動きを改善する「鍵穴のクスリ」など、見たこと、使ったことがある商品もあるのではないでしょうか。 

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壁紙の補修剤も!クロスの型取りキット使用レポート

従業員15名という少数精鋭体制ながら、数々のヒット商品を生み出してきた建築の友。 

どのように商品を開発しているのかを掘り下げるべく、2023年の新商品「ツヤ消しタイルの洗剤」、2024年の新商品「鏡のらくらく鱗状痕落とし」に着目して、商品開発も担当している営業部長五井さんにお話をおうかがいしました。 

困りごとをもとに「世の中にないものを作る」建築の友 

新井さん
あらいもん

DIY業界で知らない人はいないほど有名な商品をたくさん開発していらっしゃるので、従業員が15人と知って驚きました。建築の友はどんな会社なんですか? 

五井さん
五井さん

三重県名張市にある会社で、建築に関する便利な物の開発・販売をしています。 

工場なしのファブレスメーカーで、部署も会議もほとんどなく、商品の開発を担当しているのは代表取締役の飯島と私だけです。 

新井さん
あらいもん

数々の新商品を2人だけで作ってきたんですね。代表取締役も商品を開発しているんですか? 

五井さん
五井さん

代表取締役で建築の友の創業者でもある飯島は、金物屋の次男で、子どもの頃から大工さんが出入りする環境で育ちました。当時、大工さんは床がキズついたら色付きのシリコンを作って対応するなど、あるものを用途に合わせてアレンジして使っている状態でした。それを見て、もっと便利で使いやすいものがあればいいのにと考えていた飯島が、建築現場で働く人たちの「困りごと」を解決するために創業したそうです。だから社名が「建築の友」で、代表取締役であっても商品開発を担当しているんです。 

新井さん
あらいもん

なるほど。そういう由来なんですね。 

最初に作ったのはどんな商品だったんですか? 

五井さん
五井さん

フローリングや木製品の補修剤「かくれん棒」です。 

今となっては、どこのホームセンターにもありますが、当時の日本には補修剤というものがなく、アメリカやヨーロッパから輸入したものを使っていました。しかし、土足文化のアメリカやヨーロッパには、そもそも床の補修剤がないため、日本市場に合う床の補修剤を日本製で作ることにしました。そうしてできたのが「かくれん棒」です。 

木部の補修剤かくれん棒のパッケージと使用例
新井さん
あらいもん

商品がないから、作るしかなかったんですね。 

五井さん
五井さん

そういうことです。建築の友は創業からずっと「世の中にないもの」を作り続けています。 

新井さん
あらいもん

DIYショウの商品コンテスト受賞歴を見ると、いかに新しい商品を作っているかがわかります。 

建築の友DIYSHOWコンクール受賞歴

建築の友 会社案内より

発案から1年で商品化!秘訣は引き出しを増やすこと

新井さん
あらいもん

2023年の新商品「ツヤ消しタイルの洗剤」、私も実際に使ってみたのですが、すごい実力の商品ですよね。どのように開発されたんですか? 

五井さん
五井さん

開発のきっかけは、代表に誕生日プレゼントとして贈った高圧洗浄機なんです。 

創業から月日が経って汚れてきた社屋を、高圧洗浄機でキレイにできたらと思いましたが、実際使ってみると、落ちた汚れがまわりに飛び散ってしまったり、思ったほど取れない箇所があったりと満足いかない結果でした。

新井さん
あらいもん

水圧で飛ばすと、飛んだ汚れで周囲が汚れてしまうことがあるんですね。 

五井さん
五井さん

そうです。中でもザラザラしている玄関タイルの汚れは落ちにくかったので、もっと簡単に、もっと綺麗に汚れを落とせる商品を作れば、お客様にも喜んでもらえると思って、開発することにしました。こうしてできたのが「ツヤ消しタイルの洗剤」です。 

ツヤ消しタイルの洗剤パッケージ
新井さん
あらいもん

身近なお困りごとがきっかけで開発を始めたんですね。 

どうして塗るだけで汚れが落ちるんですか? 

五井さん
五井さん

汚れを溶かす無機酸・汚れに浸透、分解する有機酸・汚れを浮かせてはがす界面活性剤を調合していて、3つの相乗効果で塗るだけで汚れが落ちるんです。 

汚れを溶かす無機酸・汚れに浸透、分解する有機酸・汚れを浮かせてはがす界面活性剤を調合
新井さん
あらいもん

汚れに効く成分が配合されているんですね。 

無機酸って、塩酸とか硝酸のイメージがあります。危なくないんでしょうか? 

五井さん
五井さん

「ツヤ消しタイルの洗剤」には塩酸や硝酸は使っていません。 

強い酸化性の液体は、危ないイメージが強いので、店頭でもネット通販でも年々取り扱いが厳しくなっています。危険性が高い無機酸を使うと、使用時に注意が必要なので、安全な無機酸を使用しています。 

手肌にやさしく、草木にも影響しないので安心してお使いいただけます。

新井さん
あらいもん

においもなくて、水みたいな塗り心地なのに、汚れが落ちるってすごいですね! 

五井さん
五井さん

いい商品ができたおかげで社屋のタイルもピカピカになりました。実験に使った一部だけですけど(笑)。 

ツヤ消しタイルの洗剤BeforeAfter
新井さん
あらいもん

今後も実験が必要になることがあるかもしれませんからね(笑)。 

開発をはじめてから、どれくらいの期間で商品化できたのですか? 

五井さん
五井さん

高圧洗浄機で会社の玄関の一部をキレイにしてから、1年も経たずに商品化できました。 

新井さん
あらいもん

これだけキレイさっぱり汚れが落ちる商品ですから、3年くらいかかっているのではないかと思っていました。1年もかかっていないんですね! 

五井さん
五井さん

建築の友はDIYショウに向けて商品を開発しているので、1年以内で開発していることが多いです。 

新井さん
あらいもん

どうしてそんなに早く開発できるんですか? 

五井さん
五井さん

協力会社さんとのコミュニケーションによって商品開発案やアイデアの引き出しをたくさん持っているからです。 

先ほども言ったように、建築の友はファブレスメーカーなので、工場がありません。だから、技術を持った会社とのつながりを大事にしています。「ツヤ消しタイルの洗剤」を一緒に作った会社も、前から関係がありましたが、協業するのは今回が初めてでした。 

こういう商品を作りたいと思ったときにお願いできる会社があってこそ、商品を開発することができるんです。 

あとは、協力会社さんも少人数であることが多いので、迅速に柔軟に動けるところもスピードにつながっているかもしれません。過去にはDIYショウ直前の1週間前にまだ商品ができていないなんて状況から間に合ったこともあります(笑)。 

新井さん
あらいもん

アイデアもすごいですが、協力会社さんとの連携もあってこそなんですね。 

価格ではなく「世の中にないもの」で勝負する商品開発 

新井さん
あらいもん

2024年の新商品「鏡のらくらく鱗状痕落とし」も圧巻の実力ですね。 

こちらはどのように開発されたのですか? 

「鏡のらくらく鱗状痕落とし」の実力はレポートでチェック!

五井さん
五井さん

建築の友に限らず、補修メーカーには「鏡にキズがついてしまったんですけど、直すことができる商品はありますか?」という質問がよく届きます。 

鏡にキズがついてしまう原因に、研磨剤が入ったクレンザーやダイヤモンドパッドなどで掃除をしすぎてしまうことが挙げられますが、物理的にキズがついてしまうと、どうしようもないのが現状なんです。 

そこで、鏡の汚れもタイルの汚れのように塗るだけで落とせたら、キズつく原因を減らすことができるかもしれないと「ツヤ消しタイルの洗剤」と同じ協力会社さんと開発することにしました。 

鏡のらくらく鱗状痕落としパッケージ
新井さん
あらいもん

なるほど!「ツヤ消しタイルの洗剤」からつながっているんですね。 

五井さん
五井さん

鏡についた鱗状痕を疑似的に作ることができたのも大きな後押しになりました。 

新井さん
あらいもん

鱗状痕って作れるんですか!? 

五井さん
五井さん

初めての挑戦でしたが、作れたんです。 

「ツヤ消しタイルの洗剤」はいい商品ですが、汚れたタイルを作ることや持ち運ぶことが難しく、バイヤーやお客様に効果を実感いただく方法が動画しかありませんでした。 

「世の中にないもの」を作っても、それを実感いただけないとお店に入れていただくこと、手に取っていただくことができません。だから、「鏡のらくらく鱗状痕落とし」は商品化の前に鱗状痕を作りました。 

新井さん
あらいもん

効果を実感いただくために鱗状痕が必要だったんですね。どうやって作ったんですか? 

五井さん
五井さん

お風呂と同じような環境を、恒温槽を使って作ってみたんです。 

恒温槽は冷蔵庫の逆で60℃くらいを保てる機械で、普段は商品の使用期限の目安を決めるために使っています。その恒温槽に水をかけた鏡を入れてみたら、見事に鱗状痕ができあがりました。 

ただ汚れを作るだけだと、キレイに落ちる様子を見せても、落ちやすい汚れだったんじゃないかと思ってしまう方もいらっしゃるので、水だけを使って何度も乾燥を繰り返して、リアルな鱗状痕を作りました。 

恒温槽で作った鱗状痕
新井さん
あらいもん

使用期限を決めるための恒温槽で鱗状痕を! 

全然用途が違うのに、よく思いつきましたね。 

五井さん
五井さん

開発担当が2人なんで、できることからやってみる流れができているんです。アイデアの引き出しもそうやって増やしています。 

鱗状痕ができたことで、研磨剤が入ったケミカル品やダイヤモンドパッドとどう違うのか確認することもできるようになりました。 

新井さん
あらいもん

できることからやってみる、大事な心掛けですね。 

同封されている塗りスポンジには二種類の材質が使われているようですが、なぜですか? 

塗りスポンジの材質の違い
五井さん
五井さん

塗り広げることができたら、それこそティッシュペーパーでもよかったんですけど、繊維が残ってしまったり、液がティッシュペーパーに染み込んでしまって、もったいなかったりしますよね。お客様のためを思うと、専用のスポンジがあったほうがいいと思って、染み込みやすく塗りやすいスポンジと、染み込みにくく持ちやすいスポンジを組み合わせたものを、スポンジ屋さんに作ってもらいました。染み込みにくいスポンジ部分があることで、しっかり握れるし、液ももったいなくないんです。 

新井さん
あらいもん

細部までこだわっているんですね。手袋やスポンジなど、一式揃っていて、これだけ買えばすぐ使えるのは嬉しいポイントだと思います。 

「鏡のらくらく鱗状痕落とし」の評判はいかがですか? 

五井さん
五井さん

ありがたいことに第60回 JAPAN DIY HOMECENTER SHOW 2024の商品コンテストで、新商品部門金賞、一般投票部門2位をいただきました。 

五井さんが「鏡のらくらく鱗状痕落とし」を持っている様子
新井さん
あらいもん

新商品部門だけでなく一般投票も!鱗状痕落としの実験結果から効果を実感いただけたからこそですね。 

建築の友ならではの商品開発、これからも目が離せません 

協力会社さんやアイデアの引き出しをたくさん作っておいて、その中から時代やお困りごとに合わせて商品を開発している建築の友。 

「鏡のらくらく鱗状痕落とし」を試したお客様からは、水栓や浴槽にも使える商品があったらという声があがっているそうです。来年のDIYショウでは一体どんな商品が出てくるのか、独自の視点で「世の中にないもの」を開発し続ける建築の友から目が離せません。 

※この記事の内容は、2024年12月の取材を元にしています。会社名や登場人物の年齢、役職名などは当時のものになっている場合がありますので、ご了承ください。 

2025.02.04
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